まなの書評ブログ

本や映画のネタバレOKな方向け

桜庭一樹「少女には向かない職業」感想

こんにちは。
久しぶりの本の感想です。

今までは記事の更新と言う形で、外部さんの方で本を紹介させていただいてましたが、これからはこちらのブログで紹介させていただきます。

今回はこちらの本

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桜庭一樹少女には向かない職業

中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した。

衝撃的な書き出しで始まるこの物語は、凄惨で哀しくて、痛みを抱えた少女の物語。

アルコール中毒の義父に育児放棄の母、傷ついた少女はある日あまり話したことのないクラスメイト・宮乃下静香と殺人計画を立てる。

以下ネタバレになります。


用意するものはすりこぎと菜種油です

それは、階段の所にすりこぎを置き、裏手の道に油をまき、事故死に見せかけると言う間抜けな計画。
そう、静香の立てる殺人計画はどこか抜けている。
そこがこの作品の魅力でもある。

葵と静香、二人共本気で殺したい人がいて、でもその計画は子供じみている。
実際に子供なのだから仕方ない。


葵は最初、静香を友達でもなんでもないのに何故近づいてくるのか、と苛立っているが、次第にその気持ちはなくなっていき、二人の少女は友情のようなものを築き上げていく。

しかしその関係性は「殺人」と言う一つの目的によってのみ結び付けられている。
ここが、この物語をより哀しいものへと変化させて行く鍵である。

葵の殺人が終わり、次は静香の殺人。
従兄の浩一郎に命を狙われているから、殺される前に殺さなければいけない、と言うものだった。

用意するものは冷凍マグロと噂好きのおばさんです

動機のない葵が凶器になるものを持たずに家に入った事を隣の噂好きのおばさんに目撃させ、あらかじめ静香が冷蔵庫に入れておいた冷凍マグロで浩一郎の頭を殴って殺し、冷凍マグロは調理してしまう、というもの。

またも間抜けな静香の殺人計画である。
当然計画は失敗に終わり、静香は次の計画を立てる。

しかし次の計画は明確に殺意を孕んだものであった。

用意するものはバトルアックスと殺意です

要は明確な凶器(偽物の斧ではあるが)で確実に殺してしまい、死体は隠してしまえば問題ないと言うものだった。
そして、二人は哀しい哀しい結末を迎える。

最後の数行は涙が出そうになるくらい切ないもの。





二人の少女はきっと、近付きたかったんじゃないでしょうか。
その方法を誤ってしまっただけで、本当は二人は殺人などと言う結びつきがなくても、いい友達になれたはずです。
でも二人は「殺人」がなかったら結ばれることはなかった。
哀しい運命です。


私は桜庭一樹さんの小説が大好きなのですが、この本も特別な一冊になりました。
凄惨だけど美しい、そんな世界観が素敵な作品でした。