まなの書評ブログ

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瀬尾まいこ「卵の緒」感想

こんにちは、まなです。

春の陽気みたいにポカポカとあたたかい小説を読みました。

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瀬尾まいこ「卵の緒」


瀬尾まいこさんは、私は知り合いの方に勧めてもらって今回初めて読んだのですが、どうやらこの作品がデビュー作らしいです。
「卵の緒」と「7'sblood」の二編からなる、やさしい家族の物語です。


卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)



以下ネタバレになります。





「卵の緒」

僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。

物語は主人公の育生のこんな独白から始まります。
いきなりぎょっとする発言ですが、その謎が少しずつ解かれていくと同時に、母の愛がびしばしと響いてくる、やさしいのに力強い、そんな作品でした。
育生がへその緒を見せて、と母親にねだり、母親はそんな育生に卵の殻の欠片を見せます。

「母さん、育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」

このお母さん、ひょうひょうとしていて嘘なのか本気なのかつかみにくい。
もちろん冗談だよね…?と思いつつ、育生と共にだまされたような気持ちで読み進めていくと、そこにはやわらかくてあたたかい母の愛に満ち溢れた日常がありました。
例えば、おいしく作れたハンバーグを食べさせたい人は誰か、それは好きな人なんだよ、と教えてくれるシーンは「たしかに」と納得しながら読んでいました。
父親はいなくてもこんなに立派なお母さんがいて、お母さんの恋人の朝ちゃんも育生にやさしくて、惜しみなく与えられる愛は、だまされたような不安な気持ちをやわらかくほぐしてくれます。
最後の方のこのセリフは感動しました。

「想像して、たった十八の女の子が一目見た他人の子どもが欲しくて大学辞めて、死ぬのをわかっている男の人と結婚するのよ。そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛しているからよ。あなたをね。これからもこの気持ちは変わらないわ」

とてもストレートで、それまでの年月がぎゅっと凝縮されたような愛の言葉。
血は繋がっていなくても、育生はこの母の息子で、この母はまぎれもなく育生の母親なのだと、そういうしっかりとした結びつきを感じる美しいシーンです。


「7'sblood」
死んだ父親の愛人の息子であり、腹違いの弟・七生と暮らすことになった主人公の七子は、最初七生のことを好きになれずに拒絶していました。
でも、次第に七子にとって七生はかけがえのない存在になっていきます。
七子の母親は体調を崩し病院に入院していて、最初は二人だけの気詰まりな生活や衝突を見るのがつらかったのですが、私の大好きなシーンをきっかけに二人は歩み寄りはじめます。

七生が、七子のためにこっそり買っておいた誕生日ケーキが四日も経って腐ってしまい、夜中にそのケーキをこそこそと処分しようとしている所を七子にみつかってしまいます。
そして、なんと七子はその腐ったケーキを食べるのです。
これには驚きました。
いくら感動しても腐ったケーキを食べるなんて私には真似できないと思いました。

それに夜の散歩にでかけて、野犬から七子をかばい手を引き続ける七生のシーン。
その男らしさと言ったらほれぼれします。

この異母姉弟の絆を見れば見るだけ、「最後まで読みたくない!読みたくない!」と思うのですが、やがてお別れの時は来てしまいます。
でもきっとこの繋がりは消えないんだろうな、と信じることができる作品でした。



突然ですが、この二作品に共通することが一つあります。
それは、「父親がいない」と言うこと。

かく言う私も母子家庭で育ち、残されていた母も今末期がんで残された時間はわずかです。
兄が二人いますが、私は小説のように美しい兄弟愛を築けませんでした。

ですが、私にはとっておきの家族がいます。
もうすぐ結婚する予定の彼です。
血の繋がりなどなくても家族の絆は築けます。
この本を読みながらそう考えました。
大切なのは関係性の形ではなくて、その形にとらわれることなく愛を抱けることが大事なのではないでしょうか。

血がまったく繋がっていない母子、異母姉弟、そんなことはどうでもいいのです。
そんなやさしい気持ちにしてくれる素敵な一冊でした。
この本に出会えてよかったと心から思います。